糖質制限は寿命を縮める⁈米国での研究結果の真相を探る

ちょっと衝撃的ですが、2018年8月に医学誌”THE LANCET”で発表された研究において、炭水化物を適度に食べている人の方が、炭水化物(糖質)を制限している人や食べ過ぎの人よりも長生きであることが明らかになりました。

その差はなんと4歳

炭水化物ほどほど派の平均寿命が83歳、制限派は79歳。

大きいのか、小さいのか…

人によってこの差の捉え方は異なりそうですが、おじいちゃん・おばあちゃんになった時の4歳。孫の大学入学から卒業までを見届けられるかどうか…と考えると、結構大きいように感じます。

以前、「糖質制限で老ける」という東北大学による刺激的な研究結果がニュースになりました。ただ、その結果はマウス実験によるもので、結果の信頼性は低い段階でした。

結果の衝撃度は同じでも、今回ご紹介する調査結果の方が信頼性は高そうです。

というのも、アメリカで1万5千人を対象に25年間に渡り行われた調査結果と、計43万2千人を対象にした類似研究7つを使って検証した結果だからです。

この研究結果によって、近年ブームの糖質制限を実践する人たちに衝撃が広がっています。

この記事では、本当に炭水化物/糖質制限で寿命が縮むのか、発表された調査結果の紹介と共に紐解いていきます。

ほどほどに炭水化物を食べた人の方が長生きだった

調査は、炭水化物の摂取がどの程度早期の死亡を予防するか、長生きにつながるかという観点で行われました。

調査対象となった人たちを炭水化物の摂取量が1.多い、2.普通、3.少ないという3つのグループに分けて、経年での健康状態の変化を観察し、死亡率を調査しました。

英語原文では「炭水化物」を指す”carbohydrate”と記載されているため、あえて「糖質」とせずにそのまま「炭水化物」として書いています。ちなみに「炭水化物=糖質+食物繊維」です。

その結果、糖質摂取量が多い順に、寿命は以下の通りとなりました。

  1. 炭水化物の摂取量が多いグループ(1日の総摂取カロリーの70%以上):82歳
  2. ほどほどに摂取したグループ(同50-55%):83歳
  3. 摂取を制限したグループ(同40%以下):79歳

最も寿命が長い2の「ほどほど摂取」グループと摂取制限グループの間には4歳の差が出た結果となりました。この調査を受けて、「糖質制限で寿命が縮む」といって危機感を煽るようなニュース記事やコメントも目にします。

しかし、糖質の摂取量が多いグループとほどほど摂取のグループに大きな差が見られないことから、糖質をたくさん食べても寿命への影響は少ない、ともいえそうです。

ちなみに日本では、厚生労働省は1日の総摂取カロリーのうち、50-65%を炭水化物から摂ることを推奨しています。これは今回の調査で一番長寿であることがわかったグループとほぼ同じです。

では、50-55%の糖質はどのくらいの量に該当するのか。

厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2015年版)」では、1日に必要なエネルギーは、活動量が少ない男性で1日2,300キロカロリー、女性で1,750キロカロリーです。

そのうち約半分のカロリーを糖質から摂ろうとすると、ご飯普通盛りで、男性は茶碗5杯、女性は3杯くらいが目安となります。

・・・だいぶしっかり食べられますね。

炭水化物の寿命への影響を断定するのは時期尚早

今回の調査結果をうけ、ケンブリッジ大学疫学者のニータ・フォロウヒ(Nita Forouhi)教授は、「炭水化物/糖質制限ではなく、適量の炭水化物を摂り入れることが長寿のポイント」だと述べています。

近年、糖質制限によるダイエット効果や糖尿病改善への効果が明らかになってきたことで、1日のカロリーの50%以上を炭水化物とすることを推奨する食生活ガイドラインへの批判が高まっていました。

例えばイギリスのPublic Health Englandのガイドラインでは、日本と同様、1日の総摂取カロリーの50%を炭水化物から摂取することを推奨しています。ただし、炭水化物ならなんでも良い訳ではなく、玄米や全粒粉パンのような、食物繊維が豊富で、加工されていない炭水化物(いわゆる茶色い炭水化物)が必要だと提唱しています。そのため、同じ炭水化物でも、砂糖を大量に含む清涼飲料水などは含みません。

このような食生活ガイドラインは、科学的な根拠に基づいていないなどと批判にさらされてきました。しかしそれらの批判は短期的な調査を根拠にしており、長期的な視点が重要であると同教授はいいます。

今回行われた調査は、炭水化物・糖質の健康や寿命に関する長期的な影響を大規模に調べた結果であることから、糖質の摂り方も見直されるかも知れません。

調査手法から見る研究結果の信頼性

栄養学における調査手法

今回の調査に参加した研究者たちは、結果とプロセスの関連を断定する段階ではないと述べています。というのも、調査結果の信頼性は、調査手法に大きく影響するからです。

栄養学における調査は大きく分類すると2種類あり、「実験的研究」と「観察的研究」に分かれます。

今回の調査は、原因と結果の因果関係の証明が難しい「観察的研究」によって行われています。

(出典) DFID Programming for Nutrition Outcomes, Study Design Types

実験的研究では、例えばあるグループの食事をタンパク質だけにして、体調への変化を追うようなものです。ただ、この調査を人間で実施すると、調査対象者に健康被害が出る可能性もあるため、倫理的に問題があります。そのためマウスなどの動物を使って実施されることもあり、糖質制限による老化を発表した東北大学の研究もこの調査手法の一例です。

観察的研究は、調査対象者の食生活や人口統計などのデータから、ある特定のグループに見られる傾向を観察する手法です。今回の研究も観察的研究で、調査対象者が疾患にかかる以前から健康状態を観察するコホート研究という手法が使われています。

今回行われた調査の中身をみると・・・

炭水化物の摂取量と寿命の関連を調べる目的で、2段階での調査が行われました。

第1段階目は、アメリカ人15,000人を対象に25年間にわたって食生活を観察した調査です。

この調査では、アメリカ国内の4地域において、異なる社会的・経済的バックグラウンドを持つ45-64歳のアメリカ人を対象にしています。

調査参加者は、アンケートで食事内容や量、食べる頻度について回答します。その内容をもとに、平均的なカロリー摂取量や食品群ごとの摂取量・カロリーが計算されます。

アンケートは、3-5年おきに調査員が訪問してヒアリングする形式で行われました。

25年間の期間中に6,283人の方が亡くなっています。

3-5年おきにヒアリング・・・この方法を知ると、栄養学における調査がどれだけ大変か少しイメージできるでしょうか。

余談ですが、

1万人を超える調査対象者の食生活を把握するのに、あまり頻繁にアンケートも取れないのですね・・・それにしても数年に1回のアンケートだと、ある人の食生活のほんの一瞬なので、正確さに疑問が残ります。こうした事情も踏まえ、栄養学ではこれまでの通説が新たな研究にとって180度覆ったり、”ダイエット神話”を反証するのにとてつもない時間がかかったりします。スマホやアプリの普及でこうしたデータ収集方法も徐々に変わりつつあるようなので、今後に期待です。

はい、話を調査手法に戻します。

第2段階では、炭水化物摂取量の寿命への影響に関するその他8つの類似調査の結果も分析されています。(この手法はメタ分析/メタアナリシスと呼ばれます。)

これら調査は北アメリカ、ヨーロッパ、アジアの各国を含み、調査対象者を合わせると43万2千人にのぼっています。

この調査手法からいえること

今回の研究に参加した研究者たちは、結果の扱いには慎重な意見を示しています。観察的研究による調査であるため、「炭水化物/糖質摂取量」と「死亡率」の関係を断定するには十分だといえないからです。

そのため、「炭水化物/糖質を制限すると寿命が縮む」と結論づけることはできません。

「炭水化物を食生活に適度に摂り入れた方が早期の死亡率が低い傾向にある」ことが明らかになった、程度に捉える必要があります。

全ての糖質制限ダイエットは同じじゃない

調査に参加したハーバード大学公衆衛生学部教授のウォルター・ウィレット(Walter Willet)教授は、「炭水化物を食べる量が少なすぎても多すぎても良くない。ただ、最も重要なのは、炭水化物、脂質、タンパク質の”質”である」と述べています。

これは、近年欧米で見られる、炭水化物/糖質を肉などの動物性タンパク質で置き換えるダイエットの流行に対して警鐘を鳴らすコメントです。

この”質が重要“という議論は、様々な栄養や疫学の専門家や医師が発信している情報においても共通しています。

これは、全てのカロリーが同等でないことを示しているといえます。同じ”糖質”というくくりでも、玄米のように食物繊維やビタミンが豊富なものと、ポテトチップスやカップラーメンのような栄養価が低いもの、両方混在しています。

これら全てをひとくくりにして、「糖質制限は体に悪い」「炭水化物はほどほどに食べるべき」といった議論はできないということです。

炭水化物/糖質の”質”に関してはこちらの記事でも紹介しているのでぜひご覧ください。

糖質は食べても太らない?!糖質制限ダイエットの科学的エビデンス 
糖質・脂質・タンパク質のコントロールによるダイエットは様々存在しています。糖質制限が最もダイエットに効果的であるものの、糖質も"質"が高ければ食べても太らない、と研究で明らかになっています。この記事ではこの科学的エビデンスをご紹介します。

例えば、ライザップの糖質制限では、トマトや、ニンジン、玉ねぎなどの根菜は糖質が多いので食べるのはNGです。ただ、これらの野菜は糖質以外の栄養がたくさん含まれている”質”の高いエネルギー源です。そのためここまでの糖質制限はやりすぎです。

健康的な炭水化物/糖質制限方法は、野菜をたっぷり取り入れ、オリーブオイルやアボカドなどの植物性の脂質や豆類で炭水化物を置き換えるのがおすすめです。

まとめると、結局は「カロリーの質」が重要です。

糖質制限をする場合は、糖質をタンパク質や脂質だけで置き換えようとするのは危険。

食生活には野菜、果物、穀類が大切な栄養源となるため、たくさん取り入れましょう。

この記事が少しでもお役に立てていますように!

(出典)

  1. “Dietary carbohydrate intake and mortality: a prospective cohort study and meta-analysis” (August 16, 2018) (https://www.thelancet.com/journals/lanpub/article/PIIS2468-2667(18)30135-X/fulltext)
  2. CNN, “Low and high carb diets increase risk of early death, study finds” (August 17, 2018) (https://edition.cnn.com/2018/08/17/health/low-carb-high-carbohydrate-diet-risk-of-death-intl/index.html)
  3. 厚生労働省, 日本人の食事摂取基準(2015 年版)の概要 (https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-10904750-Kenkoukyoku-Gantaisakukenkouzoushinka/0000041955.pdf)
  4. DFID Programming for Nutrition Outcomes, Study Design Types (http://dl.lshtm.ac.uk/DLTesting/PNO101/sessions/S1S5/PNO101_S1S5_050_010.html)