「ケトジェニックダイエット」や「ケトン体ダイエット」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
実は糖質制限ダイエットとほぼ同じ意味です。
糖質制限により、食事から摂取する糖質ではなく、体脂肪から作られるケトン体をエネルギー源とすることで体脂肪を燃やすダイエット方法が「ケトン体/ケトジェニックダイエット」とされています。
海外のダイエットや食生活を紹介したメディアなどで糖質制限関連の情報を見ていると、「ケトン体」「ケトーシス」「ケトジェニック」などの言葉が、とにかくたくさん出てきます。
このブログでは「糖質制限」としてざくっと紹介していますが、糖質制限と密接な関係がある「ケトーシス」とはどんな状態なのか、どうやってケトーシスに至るのか、その段階をご紹介します。
ケトーシスに至るまでのプロセスと期間の目安をサクッと知りたい方は、途中読み飛ばして最後の「ケトーシスのまとめ」だけ読んでください。
ケトーシスとは
ケトーシスとは、「血中のケトン体が0.5mmol/ lに達した状態」として定義されています。(この意味がわからなくても全然大丈夫です。)
ケトン体とは、脂肪を燃焼することでつくり出されるエネルギー源のことです。主なエネルギー源である糖質(ブドウ糖)が体内になくなった時に脂肪が分解され、肝臓でケトン体が作られます。
このケトン体をエネルギーとする状態が「ケトーシス」です。
一般的に、糖質制限やファスティング(断食)などによって糖質を意図的に遮断することで、この状態になります。
ほとんどの人はご飯やパンなどの炭水化物をしっかり食べて、糖質を主要なエネルギー源として生きています。食べ物に恵まれた現代では、普通に暮らしている限り、恐らく一生ケトーシスになることはないでしょう。
しかし最近では、痩せる、というか体脂肪を燃やすために、「ケトン体ダイエット」としてケトーシスを目指すダイエット法が紹介されてきています。
健康の観点からみるケトーシス
大抵の場合、体は糖質を主なエネルギーとしていますが、ケトン体をエネルギーとすることによる利点が見つかっています。
例えばケトン体は、糖質よりも燃費の良いエネルギー源とされています。
糖質はエネルギーとして素早く分解され、使われるため、主要なエネルギー源となっていますが、燃焼される際に、活性酸素および「フリーラジカル」と呼ばれる細胞にダメージを与える物質を作り出します。これらの物質は、体内で炎症を引き起こしたり、疾患の原因につながったりするのです。
研究では、ケトン体は神経を保護し、酸化を防止することで、脳へのダメージを予防することがわかっています。加えて、新しい脳細胞を作り、元からある脳細胞との神経伝達を行う、という研究結果も発表されています。
また、ケトン体は、脳内の神経伝達物質のバランスを正常に保ってくれる、という研究結果も明らかになっています。
そのため、脳神経の異常活動が原因とされる、てんかん、自閉症、パーキンソン病といった病気に対する改善策や予防策としてケトン体が期待されています。ケトン体をエネルギー源とすることで、アルツハイマー病への対処に有効だとする研究も進められています。
進化の観点からみるケトーシス
なぜ人間の体はケトーシスになれるのか。
進化の観点から考えると、糖質以外のエネルギー源を確保することは生き延びていく上で必須だったといえます。
その一例がグリコーゲンです。グリコーゲンは、肝臓に蓄えられたエネルギー源で、食事からのエネルギー補給が行われない時にエネルギーになってくれます。
他には、体脂肪もいざという時に脂肪酸に変換され、エネルギー源として機能します。
こうした体の仕組みによって、理論上は、グリコーゲンと体脂肪があれば、人間は何も食べなくても数週間は生きていけます。(水分がちゃんと確保できている前提で)
ただ、ここでポイントとなるのは、脳へのエネルギー供給です。
脳は、体の中で一番エネルギーを必要とする部分です。そして困ったことに、体脂肪が転換された脂肪酸は脳へのエネルギー源として不十分です。
脂肪酸は脳のエネルギーになるまでに時間がかかることに加え、脳細胞にダメージを与える酸化物質を発生させるとされているためです。
そのため、体は、肝臓が糖質以外の物質から糖質を作り出すプロセスを備えています。それが「糖新生(グルコネオジェネシス)」と呼ばれるプロセスです。
糖新生にはひとつマイナス面があります。筋肉が分解されてしまうということです。
研究によると、食べ物を一切口にしない(もしくはできない)状況の時、脳が必要とするエネルギーを糖新生だけで補おうとすると、1日あたり約1キログラムの筋肉が必要となるとの結果が出ています。このペースで筋肉の分解が続くと、食べ物を探す体力が残らないくらい力を失ってしまいます。
ただし、我々の先祖はこのような状況には陥っていませんでした。
なぜか。
ケトーシスになれたからです。
簡単に説明すると、進化の段階で、食べ物が手に入らない状況での筋肉分解を防ぐため、ケトン体をエネルギーとする方法を身につけたのです。
たまに、「2時間おきに食べないと筋肉が分解される」と主張されているトレーナーの方を目にしますが、このケトン体の議論を差し置いて、「糖新生が起こると同時に筋肉が分解される」という部分のみを見ているからかと思います。
短時間でたくさん食べると、血糖値が高い状態が維持されたり、胃の消化機能にも負担がかかったりするためおすすめしません。
糖新生(グルコネオジェネシス)とは何か
「糖新生」とは、肝臓が血糖値を一定に保つためのプロセスのひとつです。グルカゴンとインスリンという2つのホルモンが関係しています。
血糖値を上げるような食事(特に糖質を多く含む食事)をすると、膵臓は血糖値を下げるため、インスリンを分泌します。インスリンは体内の細胞に糖質を運び、エネルギーとして燃やすよう促します。
インスリンが肝臓に到達すると、肝臓は糖新生が起こるのを防止し、グリコーゲンの貯蔵を促します。体内の細胞が糖質を燃やした後は、血糖値とインスリン分泌量は下がります。そして膵臓からグルカゴンが分泌されます。
グルカゴンとは、肝臓にグリコーゲンとして蓄えられた糖を血液中に放出するように働きかけるホルモンです。インスリンとは反対に、血糖値を上昇させる役割を担います。
グルカゴンの上昇に伴い、肝臓は貯蔵していたグリコーゲンの分解を行い、細胞に糖質を供給するために糖新生を促します。同時に脂肪細胞は脂肪酸を血中に放出し始めます。
もし食事で糖質を食べない場合、肝臓はグリコーゲンを分解し、エネルギー供給のために糖新生を行う一連のプロセスを継続します。
そして脂肪酸と肝臓が生成するケトン体をエネルギーとするようになります。この転換によって、ケトーシスになります。
肝臓がケトン体の生成を行うタイミングは個人によって異なります。
一般的には、すぐにはケトーシス状態にならず、糖新生によりエネルギー確保を行う状態になるまでには、グリコーゲン貯蓄がなくなってから1-9日程度とされています。
これまで一度もファスティング(断食)をしたことがなかったり、運動習慣がない人、糖質をいつも食べている人は、ケトン体の生成に時間がかかる傾向があります。また、男性は女性に比べてケトーシス状態になるのに時間がかかるとの調査結果もあります。
いずれにしても、糖質の摂取を10日程度制限することで、肝臓はケトン体を生成するケトーシス状態で代謝を始めてくれます。
ケトジェネシス:ケトーシスの代謝プロセスの裏側
血中のケトン体量が一定レベルまで増えることによって起こるケトーシスは、「ケトジェネシス」と呼ばれるプロセスによって起こります。
ケトジェネシスは、肝臓細胞のミトコンドリアによって起こるもので、心臓や腎臓の外皮(毒素の濾過をしてくれるところ)に対してエネルギーとしてケトン体を供給するため、微量ながら常に起こっているプロセスです。
(肝臓細胞と赤血球はケトン体をエネルギー源として使えません。そのため、ケトン体だけで全てのエネルギーを補うのは困難で、糖質は必要です。)
ケトジェネシスのプロセスにおいて、脂肪酸とロイシン(leucine:体内で合成されない必須アミノ酸のひとつ)やリジン(lysine:ロイシン同様、体内で合成されない必須アミノ酸)のようなアミノ酸は、アセト酢酸(acetoacetate:AcAc)に変換されます。
そしてアセト酢酸はβ-ヒドロキシ酪酸(BHB:Beta-Hydroxybutyrate)やアセトンに転換されます。
ケトン体とは、この一連のプロセスで登場したアセト酢酸、β-ヒドロキシ酪酸、アセトンの総称です。
アセトンはケトン体の中で最も量が少ない物質ですが、糖質制限ダイエットを始めてすぐの頃は生成量が多くなります。糖質制限ダイエットの初期に口臭が除光液のようなにおいになることがあるのはこのアセトンが関係しています。
ケトン体への適応
細胞が糖質制限に慣れてくると、ケトン体の中で(アセトンに代わって)β-ヒドロキシ酪酸(BHB)が最も多くなります。そして筋肉と脳がケトン体をメインのエネルギー源としてケトン体を使い始めます。
数週間経ってからケトン体への適応ができたら、基礎的なエネルギーの50%、および脳が必要なエネルギーの70%はケトン体によって供給されるようになります。
ケトン体への適応ができると、ケトン体を燃焼する細胞内にミトコンドリアが生まれるとともに、もともとその細胞に存在していたミトコンドリアは、ケトン体の代謝を助ける酵素を増加させ、効率よくエネルギー代謝を行うようになります。
これらの変化によって、糖質を摂取した場合でも、ケトン体を燃焼する体質に戻りやすくなります。長期間にわたり健康的にケトーシスを維持するためには、糖質の摂取を1日50グラム以下に抑えた食生活を始めてみるのがおすすめです。
ケトーシスのまとめ
ケトーシスとは、血中のケトン体レベルが上がっている状態を指します。肝臓が、脂肪酸や必須アミノ酸からケトン体を生成するプロセスであるケトジェネシスを促進することで起こります。
ケトジェネシスは、食べ物がない時に、筋肉を分解せず、脳へのエネルギー供給を行うために進化してきたプロセスです。ケトジェネシスを備えた動物は他にもいますが、人類は特にケトン体をエネルギーとしやすい体質とされています。
ケトン体を生成し、エネルギーに出来るようになるには、いくつかのステップがあります。
ステップ1:糖質制限から6-24時間後
体内にグリコーゲンの貯蓄がなくなります。
糖質制限を開始すると、インスリン量が減少し、グルカゴンの量が増加します。グルカゴンは肝臓に対して、もっと血糖値を上げるように促します。その結果、肝臓はグリコーゲンの貯蓄を切り崩し、糖新生と呼ばれるプロセスによって糖質を生成します。
ステップ2:糖質制限から2-10日
糖新生の段階です。肝臓に貯蓄されたグリコーゲンが完全になくなります。そして体へのエネルギー方法が糖新生に切り替わります。
この段階では、肝臓はアセト酢酸(acetoacetate)、そしてアセトンという物質を生成し始めます。
糖質制限の副作用として、口臭が除光液のような匂いになったりするのはこのアセトンのためです。副作用はこのステップを脱すると徐々に収まってきます。
ステップ3:糖質制限から2日目以降
この段階になると、たんぱく質の分解が収まり、体脂肪とケトン体の活用が増加します。いわゆるケトーシス状態です。
ケトーシスに至るまでの期間は、遺伝子や生活スタイル、運動量、これまでの糖質制限経験などによって異なりますが、早い場合は2日程度、長い場合は数週間を要することがあります。
ステップ4:糖質制限から数週間から数か月後
ケトン体への適応期間です。
2週間程度経つと、ケトーシスの状態が安定してきます。そしてケトン体をエネルギーとする細胞は、糖質からケトン体の燃焼へと切り替わっています。
この段階では、ケトン体がエネルギーの50%以上を補ってくれるため、必要とするグルコース量は減ります。
これが糖質制限を開始してから、ケトーシスになって、身体が体脂肪燃焼するまでのステップです。
各ステップにかかる時間は個人によって大きく差があります。ケトーシス状態か見極めるために、次にご紹介する身体のサインを見逃さないようにしましょう。
ケトーシス状態になっているサイン
厳密にいうと、血中のケトン体量が0.5mmol/Lだとケトーシス状態となります。そしてこの数値を測定するには血液検査が必要です。
それだと大変ですよね。そこで、体に表れる次のようなサインによって確認してみてください。
- トイレ回数(小の方)の増加:ケトン体は利尿作用があります。また、アセトアセテートも尿によって排出されるため、初期の頃はトイレ回数が増えていきます。
- 喉の渇き:ケトン体の利尿作用によって体内の水分が減るため、喉が乾くことが多くなるでしょう。十分な水分を摂るようにしましょう。
- 口臭:アセトンの一部は呼気から排出されます。熟しすぎたフルーツや除光液に似たにおいがしますが、通常は1週間程度で消える一時的なものです。
- 空腹感の薄れと活力アップ:副作用が薄れていくと、空腹感がなくなり、精神的・肉体的にも活力が上がっていきます。
これらのサインはどの程度ケトーシスか正確に分かるものではないですが、ケトーシス状態か否か、という点は明確になるはずです。
ケトーシスのメリット
体脂肪を燃焼する体質になり、ダイエットが進む、という効果以外にも、簡単に挙げると以下のようなメリットが期待できます。
・認知機能の向上、集中力アップ
・グルタミン酸(glutamate)を解毒する神経伝達物質の増加
・炎症の低下
・空腹感の軽減
・エネルギーアップ
ケトーシスが最適な人
脳疾患の改善への効果に関する研究が進められつつあります。アルツハイマー病、パーキンソン病、自閉症、てんかんなどです。
それ以外にも、糖尿病、肥満、非アルコール性脂肪肝の改善にも効果を証明する研究が多く存在しています。
これら疾患は、糖質が一因とされており、その糖質をケトーシスに至る過程で制限することによって、疾患の予防や症状の改善ができると考えられています。
ケトーシスの欠点
糖質制限によって体がメインのエネルギー源をケトン体に切り替える際、大きな転換を行います。そしてその転換によって引き起こされる変化にはマイナスのものもあります。
例えば、ケトン体は体内の酸を増加させます。その結果、アミノ酸が分泌する過剰な窒素によってpHのバランスが崩れます。その状態を緩和するため、タンパク質の必要量が増えます。そのため、糖質制限期間中にはタンパク質をしっかり摂るようにしましょう。
加えて、水分とミネラルの排出についても気をつける必要があります。ケトン体は緩やかな利尿作用があるため、軽い脱水状態にならないよう気をつける必要があります。
糖質制限によるケトン体ダイエットの副作用とその対処方法は以下記事をご覧ください。
この記事が少しでもお役に立てていますように!
(出典)ruled.me, “What is Ketosis?”
(出典の出典)
- Ketosis, Ketones, and How It All Works — ruled.me
- What is Gluconeogenesis? — ruled.me
- What Are Ketones? Everything You Need to Know — ruled.me
- Ketogenic diets and physical performance — Nutrition & Metabolism
- Each Organ Has a Unique Metabolic Profile — NCBI Bookshelf
- Ketosis in an evolutionary context — Calories Proper
- Gluconeogenesis Occurs When the Liver is Rich in Energy and the Body is Deprived of Glucose — Chris Masterjohn, PhD
- This is Why We Make Ketones — Chris Masterjohn, PhD
- Glucogenic and ketogenic amino acids — Khan Academy
- A high-protein diet for reducing body fat: mechanisms and possible caveats — NCBI
- The Effects of a Ketogenic Diet on Exercise Metabolism and Physical Performance in Off-Road Cyclists — NCBI
- Ketone Bodies and Exercise Performance: The Next Magic Bullet or Merely Hype? — NCBI
- Nutritional ketone salts increase fat oxidation but impair high-intensity exercise performance in healthy adult males — Applied Physiology, Nutrition, and Metabolism
- Ketone nutritional supplements: Good or bad for athletic performance? — Science Daily
- Gluconeogenesis and Glycolysis Are Reciprocally Regulated — NCBI Bookshelf
- Why does brain metabolism not favor burning of fatty acids to provide energy? – Reflections on disadvantages of the use of free fatty acids as fuel for brain — NCBI